現役看護師が状況設定問題を解いてみた③

第106回 午前91問  次の文を読み問題に答えよ。

Aさん(53歳、男性、会社員)は、1週前から倦怠感が強く、尿が濃くなり、眼の黄染もみられたため、近くの医療機関を受診し、黄疸と診断された。総合病院の消化器内科を紹介され受診した。時々、便が黒いことはあったが、腹痛はなかった。既往歴に特記すべきことはない。

来院時のバイタルサインは、体温36.8℃、脈拍68/分、血圧134/82mmHgであった。血液検査データは、アルブミン4.2g/dL、AST<GOT> 69IU/L、ALT<GPT>72IU/L、総ビリルビン14.6mg/dL、直接ビリルビン12.5mg/dL、アミラーゼ45IU/L、Fe27μg/dL、尿素窒素16.5mg/dL、クレアチニン0.78mg/dL、白血球9,200/μL、Hb11.2g/dL、血小板23万/μL、CRP2.8mg/dLであった。

問題1 Aさんのアセスメントで正しいのはどれか。2つ選べ

  • 1. 脱水がある。
  • 2. 閉塞性黄疸である。
  • 3. 膵炎を発症している。
  • 4. 急性腎不全を発症している。
  • 5. 鉄欠乏性貧血の可能性がある。

解説

選択肢1 ✖

「脱水」と一言で言ってもどのような過程で脱水になったかで、~性脱水と種類があるのでこの採血データだけを見れば脱水かどうか分かる!と言い切るのは難しいと思います。今回の問題では脱水であれば変動するであろうデータとして提示されている値はHb値とクレアチニン値です。Hb値はやや低めですが、クレアチニン値は正常範囲です。明らかな異常値ではなく採血データからは脱水とは考えにくいです。

実際には、採血データだけではなく、食事摂取状況排泄の状況発熱口渇感舌の乾燥の有無などの観察項目も合わせてアセスメントすることが重要になります。問題文に記載されている状況説明からは食事が取れない、頻回な下痢を呈しているなどの情報もなく、脱水であるとは判断しにくいと思います

選択肢2 〇

黄疸の種類を問う問題ですね。採血データ上AST/ALTの上昇はなく、総ビリルビン値、直接ビリルビン値の上昇を認めます。何らかの理由で胆管が閉塞し十二指腸に向かう胆汁の流れが妨げられ、滞ることで血液中のビリルビン値が高くなり採血データに表れていると考えられます。

MEMO
今回の問題には記載されていませんが、閉塞性黄疸に付随する症状として灰白色便も代表的な症状です。便の色は、胆汁の色素による着色です。胆汁の流れが悪くなることで、便の色が薄くなり灰白色を呈します。

選択肢3 ✖

採血上、血清アミラーゼ値の上昇を認めていません。また、発熱や左季肋部痛など膵炎の代表的な症状も記載されておらず、問題文からは膵炎とは判断できません。

選択肢4 

採血データ上、尿素窒素値、クレアチニン値に異常を認めていません。また、発熱や背部の痛みなどの急性症状が問題文には記載されておらず、急性腎不全とは判断できません。

選択肢5 〇

問題文に「便が黒い」とあることから消化管出血の可能性が考えられます。そこから消化管出血による貧血の可能性が考えられます。採血データ上、鉄の値が著しく低く、消化管出血による鉄欠乏性貧血が考えられます。

Aさんその後👇

腹部造影CTにて膵頭部癌が疑われ、内視鏡的逆行性胆管膵管造影<ERCP>が行われ、膵液細胞診と膵管擦過細胞診とが行われた。また、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ<ENBD>が行われ、ドレナージチューブが留置された。処置後18時間、チューブからの排液は良好で、腹痛はなく、Aさんはチューブが固定されている鼻翼の違和感を訴えている。

バイタルサインは、体温37.1℃、脈拍76/分、血圧128/80mmHgであった。血液検査データは、総ビリルビン11.2mg/dL、直接ビリルビン8.2mg/dL、アミラーゼ96lU/L、白血球9,800/μL、CRP3.5mg/dLであった。

問題2 このときのAさんへの看護で正しいのはどれか。

  • 1. 禁食が続くことを伝える。
  • 2. ベッド上安静が必要であることを伝える。
  • 3. 鼻翼にドレナージチューブが接触していないか確認する。
  • 4. ドレナージチューブを持続吸引器に接続する準備をする。

解説

ポイント
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)に関する問題です。 内視鏡がどういう経路を通って、何をするための処置かがイメージできると解答に結び付きやすいと思います。

選択肢1 ✖

ERCPをざっくり説明すると、造影剤を使用して胆管、膵管を造影し、その様子を内視鏡で観察をする検査です。観察をしながら、必要であれば閉塞箇所を広げたり、胆石を取り除いたり、チューブを留置します。今回の問題であれば、膵液細胞診と膵管擦過細胞診を行いENBDを留置しています。胆管や膵管などの細い管を造影することで圧がかかるため、検査後の最も多い合併症として膵炎があげられます。

私が勤務していた病棟では、ERCP当日は終了後、咽頭麻酔が切れた後にムセがないか飲を確認し、水分のみ摂取可、翌日に採血をしてCRP、血清アミラーゼ値を確認し膵炎所見がなければ食事再開の指示が出ていました。

食事は流動食から始まり粥食、常食と食上げをしていました。ERCPはよく行われる一般的な検査ではありますが膵管造影による膵炎発症のリスクは侮れないなという感覚を食上げの慎重さから感じていました。

 

今回の問題は、検査後18時間が経過しており、採血データからはCRP、アミラーゼ値の急激な上昇はなく明らかな発熱や痛みなどの膵炎症状は認めていません。この状態であれば、今後も禁食が継続になる可能性は低いと考えられます。

選択肢2 ✖

内視鏡検査であり長期的な動静制限はありません。私が勤務していた病院では、検査時に鎮静剤を使用することがほとんどだったので、帰室後1~2時間はベッド上安静が必要でした。その後は、覚醒良好であれば動静制限はありませんでした。

しかし、麻酔からの覚醒状況は患者さんによって異なるため、指定時間が経過したから安静解除して良いというわけではなくそれぞれの覚醒状況に応じた関わりが必要です。麻酔からの覚醒不良による転倒のリスクもあります。また、内視鏡検査が終わって目が覚めたらいつのまにか鼻からチューブ(ENBD)が出ていたという感覚を持つ方も多く、チューブが入っていることの確認と取り扱いの説明も必要です。

実際に、「なんか入ってた。気持ち悪いしいらないと思って抜いたよ。」と数時間前に入れてきたばかりのENBDチューブを自己抜去されたこともあります。そのときのショックというか絶望的な感覚は忘れられません。。。。

選択肢3 〇

ENBDは問題文にあるように、胆汁をドレナージするために経鼻的にドレナージする細いチューブです。鼻、頬、首など3点で固定をすることが多いと思います。抜けないようにしっかりと固定することは必要ですが、皮膚にチューブが接触することによる皮膚障害のリスクには注意が必要です。

基本的には1日1回固定シールを剥がして位置を変更し、その際に皮膚の状態を観察していました。ただの鼻チューブと侮ることなかれ、小さな面積にチューブの接触圧がかかった状態を何日も放置すると簡単に潰瘍を形成してしまいます。鼻翼に接触しないように、固定を直す際は、患者さんに「鼻の壁に当たっていませんか。」と確認しながら張替えをしていました。鼻先で作業をされる違和感や、固定のテープが剥がれにくいとテープを剥がす勢いで引っ張られて管が抜けてしまうのではないかなど緊張感もあり、張替え作業をするとき息を止めている患者さんも多かったなと思います。患者さんが不快な気持ちにならないように、手早く作業することを心がけていました。

選択肢4 

問題文に排液は良好であると記載があり、閉塞している可能性も低く持続吸引をかける必要はないと思われます。

私は、臨床現場でENBDを持続吸引にかけるという状況に出会ったことがありません。

排液流出量が減った場合はレントゲンで管先の位置を確認し逸脱していないか確認する、医師にシリンジなどで吸引してもらい閉塞していないか確認をしていました。

Aさんその後👇

細胞診の結果、クラスVで膵頭部癌と診断された。上部消化管内視鏡検査で十二指腸に出血を伴う膵癌の浸潤を認め、胃切除を伴う膵頭十二指腸切除術が行われた。術後、中心静脈栄養法<IVH>を行ったがインスリンの投与は必要ないと判断された。経過は良好であり、食事が開始された。

問題3 このときのAさんに対する説明で適切なのはどれか。

  • 1. 便秘が起こりやすい。
  • 2. 脂質の制限は不要である。
  • 3. カロリー制限が必要となる。
  • 4. ダンピング症状が起こりやすい。

解説

選択肢1 ✖

解説にある通り、膵臓切除により膵臓から分泌されている消化酵素が減少します。内服薬で消化剤を補充することもありますが、消化吸収が阻害され下痢症状を呈することが多いです。しかし、腹部の手術をしている以上、便秘やイレウスのリスクはゼロではないのでそれに関する注意点も説明する必要はあると思います。

選択肢2 ✖

選択肢1と同様に、脂質の消化吸収能が低下します。脂質の摂取は控えめにする必要があります。

選択肢3 

問題文にインスリンの投与は必要ないと記載があり、血糖値はおおむね安定していることが予想されます。術後は食べられるものを食べて栄養を取ることが必要であり、もともと糖尿病の既往がない場合は必要以上のカロリー制限は不要と考えます。

選択肢4 〇

今回の手術は胃切除を伴っており、胃切除後の一般的な注意点としてダンピング症状に注意する必要があります。

ただ、経験則ですが、膵臓がんの手術をした患者さんは食欲がわかない、食事が入らないと話し食事量が増えないケースが多かったという印象があります。

膵頭十二指腸切除術は消化器手術の中でも切除範囲が広く、消化管同士の吻合も多い侵襲の大きな手術です。そのため術後の胃の動きの回復、消化吸収の安定に時間がかかります。したがって、分食や間食をしながら食べられるものを食べて栄養をつけることを勧めていました。

人により術後の症状は様々です。脂質制限など一般的な注意事項はありますが、そう説明されたから、と脂身のついているお肉は絶対に食べないなど極端にとらえてしまう患者さんもいます。あまり神経質にならず、少し食べてみてお腹の症状と相談しながら自分なりに工夫して食事を食べられるように支援する関わりも必要だと思います。

おウサ
おウサ

検査や手術がどんなものかわかっていると、こうやって看護に活かせるんですね!

ぽんこつナース
ぽんこつナース

そうだね!今のうちからイメージをつけておくと、実習でも臨床でもいきてくるよ。

おウサ
おウサ

あと、チューブを自己抜去された後、どう対応したのか気になります!私だったらどうしようってなる~💦

ぽんこつナース
ぽんこつナース

こんな事件がありました!こう対応しました!って話を現役看護師さんから集めたらおもしろいね✨聞いてみる!

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