現役看護師が状況設定問題を解いてみた②

第107回 午前94問  次の文を読み問題に答えよ。

Aさん(55歳、男性)。胃癌のため胃全摘出術を受けた。術中の出血量は300mLで、輸血は行われなかった。既往歴に特記すべきことはない。入院時身長166cm、体重78kg。手術後1日、硬膜外持続鎮痛法が行われているが、Aさんは創部痛が強いため呼吸が浅く、離床はできていない。このときのバイタルサインは、体温37.1℃、呼吸数22/分、脈拍120/分、血圧162/90mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度<SpO2>93%(鼻カニューラ2L/分 酸素投与下)。Hb13.8g/dL。尿量60mL/時。意識清明、心音および呼吸音に異常なし。頸静脈怒張なし。下肢に浮腫なし。創部に熱感や発赤を認めない。腹腔ドレーンからは少量の淡血性排液があるが、膿性ではなく、異臭もない。

問題1 このときのAさんのアセスメントで適切なのはどれか。

  • 1. 貧血のため脈拍が速い。
  • 2. 疼痛のため血圧が高い。
  • 3. 創部感染のため体温が高い。
  • 4. 心不全のため呼吸数が多い。

解説

40歳以降の男性の罹患率が高く、臨床現場では他の消化器疾患に比べ年齢が若い患者さんも多いという印象を受けます。

経験則ですが、若い人の方が高齢の人に比べ痛みの閾値が低く、術後疼痛に対する苦痛が大きい、また男性の方が女性に比べ痛みに弱い傾向にあると感じます。

選択肢1 ✖

術中の出血量や輸血をしなかったとの文章から術中に異常な出血はなかったことが分かります。既往歴に特記すべきことはないとの文章から、既往に貧血があることも考えにくいです。そしてHb13.8g/dlのデータからも貧血は否定出来ます。

選択肢2 

問題にあるように、痛みによる苦痛が強いときバイタルサインとしては、血圧が上昇し、頻脈になることが多いです。呼吸が浅いと書かれていることから十分に酸素が取り込めておらず、酸素飽和度が低下していることも納得できます。

選択肢3 ✖

問題文に、創部に熱感や発赤を認めないとあり、ドレーン排液も異常がないこと、明らかな感染兆候はなさそうです。また、体温37.1℃は術後急性期の創部感染による熱としては低いという印象です。術後急性期の明らかな創部感染による発熱であれば、38℃以上の熱が出ることが多いと思います。

選択肢4 ✖

意識レベルや心音など様々な観察項目で異常がなく、既往歴に心疾患もありません。また、術後1日目で尿量が60ml/時流出しており、心不全を思わせる状況ではありません。

解答に直接関連はありませんが、

疼痛が強く術後に動けないという患者さんは少なくありません。ですが、麻酔で一度眠った体を起こし離床することは、合併症の予防と術後回復のためには必須です。

とはいえ、痛いときに動くというのは患者さんにとってはきついことであり、「なんでこんな痛いのに動くんだよ!昨日手術したばかりだよ!!」と思う気持ちも理解できます。痛いから動かないとならないためには、術前に丁寧にオリエンテーションをして、術後の早期離床の必要性を理解してもらうことが大切です。

実際には、お腹を切るのだから、痛いのは当然。でも、動かないと合併症のリスクも上がるので我慢はしなくて良いので痛み止めを使いながらでも少しずつ動きましょうと伝えています。

離床の際には、痛みが強くなることを予想して離床する数分前から痛み止めを事前に投与をする、それでもベッドから離れ歩くことができなければベッドをギャッジアップして座ってみる、ギャッジアップした姿勢で深呼吸をする、ベッド上で足を動かすことなどを提案し、それだけでも肺合併症や血栓予防につながることを説明します。

また、日中よりも夜間の方が周囲が静かになり、痛みをより強く感じて眠れないという患者さんもいます。手術後の体を休めることも大切ですし、翌日に再度離床にトライする体力を保つためにも、夜間は睡眠を確保することも大切です。患者さんから直接訴えがなくても、痛みで辛そうな表情や眠れていない様子があれば鎮痛剤の使用を提案することもあります。

問題2
手術後5日からAさんの食事が開始された。Aさんは食事の後に、めまい、顔面紅潮、動悸、下腹部痛を伴う下痢が出現し、冷汗がみられるようになった。現状で最も考えられるのはどれか。

  • 1. 術後せん妄
  • 2. 乳糖不耐症
  • 3. 偽膜性大腸炎
  • 4. ダンピング症候群

解説

胃癌術後に注意すべき合併症のダンピング症状といえばこれという定番の症状が上がっています。

選択肢1 ✖

せん妄で問題文のような症状(めまい、顔面紅潮、動悸)を呈することもあるかと思いますが、明らかな不穏行動などが記載されておらず、せん妄とは考えにくいです。

選択肢2 ✖

食事内容が詳細に記載されておらず、問題文だけで乳糖不耐症と判断するのは困難です。

経験則ですが、臨床現場で胃癌術後の合併症としてあまりメジャーではないと思います。

選択肢3 ✖

偽膜性大腸炎で問題文のような症状を呈することはあると思いますが、問題文の情報だけから偽膜性大腸炎とは考えにくいです。

選択肢4 〇

早期ダンピング症候群、後期ダンピング症候群の症状が挙げられていますね。

ダンピング症候群を防ぐには、患者さんに食事摂取時の注意項目を守ってもらうしかありません。

食べ物が急速に吸収されるうんぬん、血糖が急速に上がる反動で低血糖がうんぬん。説明して理解してもらうに越したことはないのですが、高齢の患者さんなどなかなか理解が難しい方もいるかもしれません。そんなときは、術前、術後の消化管の変化をイメージでつかんでもらっています。食事を食べた後、食べ物を貯めてくれそうな袋の形をした胃がなくなり、口から小腸まで1本のぶらりとしたホースでつながっているだけ。そんな図を見てイメージしてもらうことができれば、細かい内容は完全に理解できずとも、どうやら飲み込んだ食べ物が一気に下にストンと落ちていってしまうようだと理解してもらいやすいと思います。いままでと違ってゆっくり食事をとった方がよいかもと思ってもらえれば、注意点についてこちらからの説明にも耳を傾けてもらいやすいと思います。

患者さんだけでなく、家族にも同様に伝え、食事の際に見守ってもらう。食事をゆっくりとると言っても、ゆっくりの感覚も人それぞれなので卓上時計を見ながら30分程度かけて食べるとはどのくらいの感覚かを体感してもらったりもしています。

食べることが好きな人にとって、食事について細かく制限をされ、好きなものを好きなように食べられないのは辛いことですよね。実際に術後の経過で食事制限をしているはずの患者さんなのに、ベッドサイドの棚からお菓子がたくさん出てきて、隠れて食べていたなんてこともありました。売店にお菓子を買いに行く体力が回復したことを安心する半面、食事管理は難しいなと感じた瞬間でした。

問題3
手術後14日、Aさんは食後に出現していた症状が落ち着き、退院が決まった。Aさんへの退院指導の内容で適切なのはどれか。

  • 1. 1回の食事量を増やす。
  • 2. 海草を積極的に摂取する。
  • 3. 食後の冷汗が出現した際には身体を温める。
  • 4. 空腹時はコーヒーなどの刺激物の摂取を避ける。

解説

消化器術後患者さんへの大切な関わりの一つが退院指導ですね。胃癌術後の患者さんへの食事に関する退院指導といえば、少量ずつ回数に分けて、よく噛んでゆっくり食べるというのが定番です。

選択肢1 ✖

胃の容量が小さくなっている術後患者さんには不適切な内容です。

選択肢2 ✖

腸閉塞予防に食物繊維を取りましょうという意味の選択肢ですね。消化器術後患者に対し、腸閉塞予防策を提案するのは大切ですが、食物繊維は排便コントロールに効果的である反面、大量に摂取することで消化不良や便秘を引き起こす可能性があります。摂取するのであれば、柔らかく調理することが必要ですし、問題文のように積極的(どの程度を積極的と表記しているのかも不明です)に摂取するものではないと思います。腸閉塞予防の指導をするのであれば、食後の腹部の張り感や吐き気の有無、排便回数や頻度を気にするように伝えた方が分かりやすいのではないでしょうか。

選択肢3 ✖

食後の冷汗後期ダンピング症候群による低血糖によるものと考えられます。そのため、身体を温めても問題解決にはなりません。

選択肢4 〇

胃癌の術後だから、特別に空腹時の刺激物を避けましょうということではないような気がしますが、胃にとって辛い物や熱いものなど刺激物を頻回に摂取することが良いことではないことは明らかです。術後の回復過程にある胃にとってはなおさら刺激になりますね。

解答には直接関連はありませんが、胃癌術後の食事に関する退院指導は術後の関わりの中で最も個別性をふまえることが大切になると思います。

 

食事の注意点について書かれたパンフレットを提示するだけではあまり意味がありません。入院前はもともとどのような食生活だったのかまず情報収集をしなければ食事指導はできません。3食食べるのか2食食べるのか、誰が作るのか、どこで食べるのか、どれくらい時間をかけるのか、大好物で食べ頻回に食べているものなどがあるのか、仕事をしている人であれば食事休憩はどれくらいの時間、どのような環境で取れるのか、など。そもそも食事を作るという概念がない人もいるでしょう。コンビニやお弁当を買ってくる、高齢の一人暮らしの方で宅配弁当などを使用している方もいると思います。

 

いろんな情報を仕入れたうえで、できる限り好ましい退院後の生活を送ってもらうために、その人にあった注意点、工夫点を考えることが大切です。

 

面倒くさいと思うこともあると思いますが、「看護師」というだけでその人の食生活や普段の生活、家族関係について根ほり葉ほり聞けるのはすごい特権だなと思います。得た情報から想像を膨らませ、そこに病態の知識を合わせてその人にあった支援や指導ができるのは看護師にしかできないとても素敵な関わりだなと思っています。

ぽんこつナース
ぽんこつナース

以上、消化器科の看護師さんによる解説①でした!

おサル
おサル

現場の生の声!おもしろかったー!✨勉強したことがこうやってつながるんですね!

ぽんこつナース
ぽんこつナース

だね!流れがわかると理解が深まるね!

パート③も引き続き消化器系の問題です。興味のある人はみてみてください🎵

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